金融機関は、返済の目処が立たない企業に対しては、安心して融資をおこなうことはできません。そのため、土地などの担保や経営者保証などの条件をつけて、万が一企業が経営不振に陥ったとしても、融資したお金を回収できるよう安全策を講じています。
「今は会社勤めだけれど、いつか起業をしたいと考えている。でも、今の安定した地位を捨てて、自分で会社を立ち上げたとき、もし事業に失敗して借金まみれになってしまったらどうしよう…」
一度でも起業について思い立ったことがある人なら、このように考えたことがあるのではないでしょうか。生活のことを考えれば、起業に二の足を踏んでしまうのは、当然のことといえます。
そして、既に会社を興したものの、経営がうまくいかずに事業再生を考える経営者にとっても、追加融資を受けたとして必ず返済できるという保証はありませんから、「いっそ廃業をしたほうが…」と考えてしまうことも。
しかし、このままでは、日本は「起業」へのハードルが上がり、新規サービスや事業が生まれづらい国となっていきます。伴って世界での競争力もどんどん失われていくこととなります。
そこで中小企業庁は、事業展開や早期の事業再生などを支援する意図から、「経営者保証に関するガイドライン」を公表しました。
今回は、中小企業庁が出した「経営者保証に関するガイドライン」についてと、そもそも経営者保証とは何か、そして、経営者保証を金融機関から外してもらうための条件などについてお伝えしていきます。
中小企業の経営者の方、これから新規事業を立ち上げたいと考えている方は必見です。
企業が金融機関からお金を借りる際、経営者は自身が持つ土地などの担保を提供したり、経営者保証をつけることを求められます。
経営者保証とは、分かりやすくいうと連帯保証のこと。
会社の経営が立ち行かなくなり、借りたお金については、経営者が責任を持って金融機関へ返済しなければならないという保証です。
つまり、「会社=経営者」と見て、会社が作った借金は、経営者が最後まで責任を持って返すべきという考えのもとに生まれた保証です。
これこそ、先述した通りの起業に対する恐怖心や、事業再生を阻む理由となっているものです。
そこで、中小企業庁が出したのが、「経営者保証に関するガイドライン」と呼ばれるもので、法的拘束力こそありませんが、以前と比較すると活用件数は増えてきています。
ところで、金融機関が土地を担保にする際に、根抵当権(ねていとうけん)を設定しようとするケースがあります。
根抵当権とは、あらかじめ上限である「極度額(きょくどがく)」と「被担保債権の範囲」を定めることで、これらの範囲内であれば、何度もお金を借りたり、返済することができるという、民法上の約定担保物権のひとつです。
金融機関との取引の際に、その都度、抵当権を設定することなくスピーディで費用を節約した取引をすることが可能ですが、抵当権とは異なり、一方の意志だけでは取り消しができず、双方の合意が必要となるという借主側にとってのデメリットがあります。
つまりこの根抵当権は、通常の抵当権とは違い、融資毎に紐づけられた権利ではなく、仮に借入金を返済しきったとしても、同じ金融機関から借りている別の融資に対しても担保としての効力を有するという、非常に強力な縛りになる権利だということです。
根抵当が設定されると、債権者としての優先順位が高くなるため、金融機関としては有利な条件付けであるといえます。一方で、会社の土地に根抵当権が設定されているだけで、他の金融機関からはその土地を担保とした借り入れが不可となるケースもあります。
また、この根抵当権の設定が影響を及ぼすのは、金融機関からの融資にだけにとどまりません。たとえば「事業再生構築補助金」といわれるポストコロナ禍に中小企業庁が公募を開始した、事業の再生や新規事業の立ち上げを支援する補助金の助成条件にも、担保とする土地に根抵当権が設定してある場合には、原則、その土地を担保とすることができないのです。
話を戻して、中小企業庁が出した「経営者保証に関するガイドライン」について、その中には金融機関から経営者保証を外したうえで融資を受けるために必要な条件が、以下のように列挙されています。
まず大切なのは、会社の私物化をせず、法人と経営者の財産が明確に区分されていることです。
たとえば、以前はよく、経営者が所有する土地の上に事務所を置き、土地の利用料を会社(=借主)が経営者(貸主)に対して支払うといったことがおこなわれていました。このようなことをしていると、会社と経営者自身の財産を、まさに公私混同している状況だととられ、金融機関からの信頼を得ることはできません。
決算書の内容は、当然重要な評価ポイントとなります。業績が好調であるのはもちろんですが、決算書の透明性が確保されていることも大切です。
・決算書の中におかしな勘定項目がある
・不明な在庫について記載がされている
・売掛金がちゃんと回収できるのかが怪しい
このような決算書になっていないか、突っ込まれるポイントが無いのか、ここもしっかりと見ていくことが肝心です。
自己資本比率が高い状況の逆は、他人資本、つまり借入金が多い状態を指します。売上の拡大を求めるあまり、借金まみれになっていては、金融機関からの信頼は得られず、経営者保証が外されることはありません。
たとえば、飲食店を経営する経営者の方でありがちなのが、店舗の運営が軌道に乗ったとたんに、店舗拡大をすぐに目指した結果、店舗の維持費や人件費などが無駄にかさみ借入金が増えてしまうようなケースです。
コロナ禍の中で、自己資本比率が高い会社は、たとえば居酒屋の業態を主としていたところ、持ち帰りの唐揚げ屋など、時代のニーズに沿った店舗展開をおこなうことにより、赤字から黒字に逆転を果たしました。
しかし、このような素早い業態転換は、自己資本という基礎体力があるからこそ可能なことでした。一方で、店舗展開ばかりを繰り返し、借入金ばかりが膨れて他人資本ばかりで営業をしていた基礎体力のない会社は、どんどんと倒産していったのです。
自己資本比率の高い、財務経営をしっかりおこなうことは、経営者保証を外すのに絶対不可欠な条件と言えるでしょう。
事業計画書とは、以下の内容を書面としてまとめたものを指します。
・経営者として、どのような事業活動を行っているのか。
・今後、予定している営業活動の内容と、その量や頻度、予想される効果。
・いつまでに売上をどの程度まで引き上げたいと考えているのか。
この事業計画書は、金融機関の内部の人間からしても、経営者が本気で事業に取り組み、借入金の返済を約束通りおこなう見込みを持っているのか、判断する重要な資料になります。
「お金が必要なので貸して欲しい」とただ言葉で言われるよりも、「こういうことに必要なので、お金を貸して欲しい。こういった活動の結果、これだけの売上が見込めるので、〇月までには返済が可能です」と、たとえ青写真だとしても明確に伝えられた方が、融資をする側としても「よし、そこまで言うならば貸してやろう」となるのが人情でしょう。
ちなみにこの事業計画書は、金融機関から融資を受ける際はもちろんですが、事業上の重要な決断を迫られ、意思決定を下す際にも役立ちます。優秀な経営者は、事業計画書を作る際に、専門家にコンサルティングあるいはコーチングを求めるケースがあります。高いフィーを支払ってでも、プロと共に事業計画書を作り上げることの意味、そして価値を知っているのでしょう。
定期的に金融機関へ業績報告をおこなうなんて、面倒だと思われる経営者は多いかと思います。何の意味があるのだ、とも疑問に思われるでしょう。
金融機関は何よりも、お金を貸して、貸しっぱなしとなってしまうのを嫌います。言い換えれば、融資をした後にその企業から何の報告もない状況を、良く思わないのです。
会社における上司と部下の関係で考えると、分かりやすいかも知れません。仕事を任せた部下が2人いるとして、業務の進捗を定期的に報告してくる部下と、こちらから聞くまで一切報告をしてこない部下ならば、どちらを信頼できるでしょうか。そして、この場合の「仕事」を、「借りたお金をしっかりと返すこと」と言い換えれば、金融機関の気持ちも分かるのではないでしょうか。
金融機関といえども、営んでいるのは人です。信頼関係は、こまめな報告があってはじめて成立すると考えるべきです。
経営者の仕事は、ひとえに会社にいかに利益をもたらすのかを考え、実行することです。日々、どのように売上をあげて、利益を出すのかに苦心されているのを、私たちは知っています。
しかし一方で、ここまで述べたような財務体質の改善や事業計画書の作成などは、金融機関から有利な条件で借り入れをおこなうのに不可欠なもの。ですので、経営者の皆さんにとって必要なのは、常にこういった「目先の利益の追求以外の事柄」を代わりに、あるいは一緒になって考えてくれる伴走者です。
会社の中で、そのような優秀な財務担当者がいてくれるのならば、あるいは上手くいくかも知れませんが、もしそういった仲間がまだいないのであれば、専門家を顧問先として、任せることが合理的な選択ではないでしょうか。
なお、金融機関によっては、経営者保証を外す要件の一つに、このような「認定支援機関」の支援を受けていることを挙げるケースもあります。そのような意味でも、専門家の支援には、顧問料以上の効果が見込まれると考えてよいでしょう。
私たち稲田財務は、経営者の皆さまご自身が決算書類を読めるようになり、事業計画書を作れるようになって、金融機関との交渉を有利にすすめる一助になりたいと本気で考えています。
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