私たち稲田財務は、東京・広島を中心に、企業の利益改善や財務体質改善をおこなうべく、財務に関する顧問サービスをはじめ、金融機関の融資サポート、さらには経営者を対象とした財務教育などを提供しています。
今回は、他社との差別化が難しく、低利益での経営が一般的とされる建機レンタルサービス業で、直近5年間の経常利益を16%以上で保持し続ける会社の取り組みをご紹介します。
一時は、金融機関からの融資も断られ、会社の存続まで危ぶまれた中小企業が、知恵を振り絞ったアイディアで財務体質を改善し、サービスの差別化を成功させました。業績をV字回復させたその経営からは数多の学びを得られます。
不利な立場にありながら、どのような方法で順調な利益を上げることに成功したのか?
金融機関からの融資を受けるために、どのような財務体質の改善を実行したのか?
業績の伸び悩みに苦しむ中小企業の経営者の方、財務改善をおこない業績を回復させたいと考えている方は必見です!
先日、日経ビジネスの「日経トップリーダー 企業研究」で、このような記事を読みました。
千葉県にある建機のレンタルサービスを手掛けるA社が、経営危機と呼ばれる状況から一転し、毎年安定した利益を生むような優良企業となり、直近5年間非常に高い水準の経常利益を上げ続けている、という話です。
建機レンタルサービスとは、建設会社に対して、現場作業に必要なクレーンなどの重機を都度貸し出すビジネスです。
正直に言うと、この記事を読む前は「ストーリーを誇張しているのでは?」と疑いました。
理由は…一般的に建機レンタルビジネスは、大手企業の方が圧倒的に有利だからです。
大手企業は高価な建機を大量に、かつ、安く購入することが可能だからです。仕入れ値が安く済めば、レンタル費用も同業の中小企業と比較して安くしても、十分に回収が可能です。一方で、資金的に不利な中小企業は、自社の利益を削って貸し出しの値段を安くし、大企業に対抗するより他ないのです。
そのため、中小企業がレンタルビジネスで安定した利益を生み出すのは至難の業と言われています。しかしA社は 、
「汎用性の高い機械だけでなく、他の建機レンタル事業者が保有していないニッチな特殊重機を取り揃える」
「購入から一定期間経過した中古建機を、購入時の40%程の価格で海外に売却」
「専用機器にガイダンスステッカーを貼ることで故障等の大幅な抑制」
などのアイディアで、見事、高収益企業に生まれ変わったのです!
日本の中小企業における経常利益の目標は、およそ5%程度と言われています。
たとえば、売上が10億円ほどの中小企業であれば、5000万円くらいの利益が出ればいい方。そんな中、目標を20%以上と設定した上で、通常企業の3倍以上の経常利益である16%以上を誇るということは、どれだけ優秀な経営をしているのかがお分かりいただけると思います。
この会社では、経営の目標として、しっかりと利益をあげ、内部留保を毎年積み上げることを目標としています。これは、同社の経営者が、中小企業にとって大切なのは、融資を受ける金融機関との信頼関係であると気付いたためだそう。
この会社は、金融機関から融資を断られて以来、内部留保を積み上げること以外にも、様々な財務改善策をとることで、財務状況を改善させ、融資を受けやすい企業へと生まれ変わらせたのです。
では、一体どのような施策で財務状況を改善したのでしょうか。
具体的には、会社が持つ不良債権や投資案件などを毎年処理することで、会社の実態に近いバランスシートを作成することに心血を注ぎ、金融機関や調査機関からの高い評価を得る。安定且つ低金利の融資を受けることに成功したというのです。
金融機関の担当者は、多くの中小企業の財務諸表を見てきています。想像以上に、企業の状態を見抜く目があると考えた方がよく、中途半端な粉飾はしないほうが、信頼関係を築けると考えた方がいいでしょう。
続いては、この企業がどのような営業戦略を持って、大企業に負けない営業成績と、利益を生み出したのかについても見ていきましょう。
製品面での差別化戦略は、
「他社にはないラインナップの重機を揃える」
「他社が普通の建機を購入する資金で特殊な建機を仕入れる」これらです。
実は…ここには建機業界全体が抱える、ユーザーである建設業の「現場」へのジレンマが隠されています。
簡単に言えば、いくら高性能で便利な建機が開発されても、ユーザーが求めるのは”いつもと同じやり方”です。
使い慣れた建機で、やり慣れた工法で施工する。
本来、特定の作業を行うため専用に造られた、いわゆる「特殊建機」を扱えれば、現場での作業効率は格段にUPします。
しかし、当事者である現場のオペレーターは、日々業務に追われ、様々な便利な建機の機能についてアップデートしている暇はありません。
結局いつもと同じ建機をレンタルし、いつもと同じやり方で作業をすることになるのでしょう。
この状況を打破するには建機レンタル会社の相当な営業努力が求められるでしょう。
だから一般的な建機レンタル会社は、わざわざ特殊建機を取り揃えるようなことはせず、汎用性の高い建機ばかりを貸し出し、経営状況に大きな変化を期待できなくとも保身に回るのだと考えられます。
しかし、A社の選択は違ったのです!
ではどうすれば、現場で忙しいオペレーターが、特殊建機を使ってみようと思うでしょうか。
A社はここに知恵を絞り、超低コストで顧客満足を実現しています。
その一つが、使い方がわかりやすく書かれたステッカーをあらかじめ操縦席にペタペタ貼っておくことです。
知れば単純なことですね。
営業とは、何も営業マンだけの仕事ではないわけです。
営業と、カスタマーサクセス/カスタマーサティスファクションは切っても切り離せないものです。
1枚のステッカーが、お客さまの満足を生み出す。
もし他の建機レンタルサービスが無機質な重機をただ貸し出すだけであれば尚更、そのA社のステッカーは配慮の行き届いたサービスとしてオペレーターの記憶に残り、気持ちよく仕事をさせてくれるのでしょう。
そうして現場の心を掴めれば、次回もきっと他の重機が必要になった時には”現場から”「A社で借りよう!」という声が上がってくるでしょう。
A社の事例を知り、改めて感じたことは、会社の経営状況をよくしたいと思うならば、経営者が最初に使うべきは「お金」ではなく、まずは「頭」だということです。
お金を使わず知恵で打開する。
その姿に感銘を受けました。
単純に売るものを増やし、営業マンを増やせば、売上は増える。
しかし、それでは人件費も嵩み、商品は同じですから、本質的なボトルネックが解消されなければ長期で効果を発揮する戦略にはならないでしょう。それよりも、会社の商品やサービス、理念へのファン作りをする方が、大切なのですね。
その他、「どうやったらクレームが無くなるか」「どうやったら故障が無くなり、そのことで出張が減るのか」など、売上を伸ばす考え方だけではなく、損失を減らして利益を増やすといった視点での業務の改善ができないか、頭を使って考え抜くこと。非常に感心させられました。
ぜひこのケーススタディから、金融機関やステークホルダーから信頼を勝ち取れる経営へのヒントを見出していただけましたら幸いです。